てんきた

笑ってはいけない美容院【vol.3】

天界から来ました。

美容院に行ったときの話題に困るという話をよく聞くが、そんなのは客が心配することではない。むしろ、どんな話をして笑かしてやろうかだなんて考えているとしたらお門違いだ。

床屋か美容室かのこだわりはそんなにないのだが、髭を剃ってほしいから理容をやっているところで、シャンプーは仰向けがいいから美容院を選ぶようにしている。

いつもと違う空間と言う意味で美容室に行くのが好きだ。どんな話が聞けて何が起こるんだろうと、同じ店に行くのに毎回ワクワクしてしまう。

笑ってはいけない美容院

もう5年くらい通っている美容院がある。正確にはわからないがたぶん5年くらい経つ。

私のアンニュイなオーダーにもフィットするアンサーをサジェストしてくれる。失礼、ちょっと言葉がおしゃれになりすぎた。

「気だるい感じでお願いします」という注文に「あー、なんとなくわかります、大丈夫です」と答えてくれた時から信頼して任せている。

特別安いわけでも無いし、美容師の技術の差がわかるほど素敵な髪の毛をもっているわけではないが、ここから変える気は起きない。これから先もきっと通うと思う。

 

担当の方がカットやパーマをしてくれるのだが、顔剃りやシャンプーは別の人が行うことがある。今回もそうで、新人の女性スタッフが私の顔剃りと最初のシャンプーを担当してくれた。

顔剃りの時に「椅子倒しますね」と声をかけ彼女は椅子を倒したのだが、自分の思った高さではなかったのだろう、3度ほど上下を繰り返した。

下!上!下!想像してみてほしい、声もかけずに背もたれが急に上下する様を。軽く浮くからね、背中。

なんとなくこの子は車のブレーキもゆっくり踏むタイプではなさそうだなと思った。いやはやまったく失礼な話ではあるのだけども。

そんなことを考えていると笑いがこみあげてくる。思わずにやけてしまいそうになる。しかし考えてみてほしい、これから髭を剃られようと仰向けになっている男がにやけていたら気持ち悪くないだろうか。

しかも特別話しかけたわけではない。なのにニヤニヤしていたらそれはもう気持ち悪い。

それに、相手は若い女性だ。やましいことを妄想してニタついているように見えないだろうか。そう考えるともう絶対笑うわけにはいかない。

 

しかし、考えれば考えるほど面白くなってくる。なるべく彼女の方を見ないように周りに目をやると隣の美容師さんと目が合いそうになる。

それを避けて逆側の時計を見ていると、「この人時間を気にしてる、急いでいるのかな」と思われてプレッシャーを与えかねない。

そんなことを考えながら目をきょろきょろさせている自分を客観視すると、それもなんだか面白くなってきてしまう。

いかん、落ち着け。笑ってはいけないぞ。これは絶対に笑ってはいけない美容室なんだ。そう考えるとなおさら笑いたくなる。

 

その時である。硬いひげを柔らかくするため彼女が私の顔にタオルをかけた。これはいい、口元が隠れるからこれで少しはごまかせるぞ。

そう思ったのが甘かった。あろうことか彼女、私の口元にタオルを乗せた後、畳んで重ねた際、ちょうど私の鼻も塞いでしまったのだ。

息が、しにくい。

ゆっくりと深く息を吸うしかない。大きく吸うしかない。大きく呼吸をしているのにこの状況に彼女は全く気付かない。

もうダメだ、この状況が面白い。面白くなってきておなかのあたりがひくひくしてしまう。

だが仰向けだ。私のぽっちゃりぼでぃはなんとか隠したい。

ああ、想像が!頭の中の私の会話が!着眼点が!じわじわと笑いを取りに来てる!

なのに紳士!私の顔今紳士!!

そんなことを考えながら何とか乗り切った。ハヤエル、セーフ。

 

顔の上半分を剃り終えたところで口に乗せていたタオルがやっと外れた。いよいよ口周り。

少し深めに頼むぜお姉さん。そんなことを考えていたときだ。私がまったく想像できなかったことが起きた。別の男性スタッフから声がかかったのだ。

「足にマッサージ器当てますね。」

えっ、今?これから本腰入れて口周りを深剃りしてもらおうっていうこのタイミングでマッサージ器当てるの?

めっちゃ震えるじゃん。もうすごい震えてるよ?手元大丈夫?

僕が今震えてるのは本当にマッサージ器だけのせいなの?

この店はいつもサービスで最後に簡単なマッサージをしてくれるのだが、このタイミングは初めてだった。

ああそうか、きっとこういうタイミングに変わったんだなと思った。

隣の席のカットをいつもの担当の方がやっていたのでチラッと見ると、こちらの様子を見ながら苦笑いしていた。

おい少年!違うぞ、このタイミングきっと正しくないぞ!

幸いなことに私の口周りは無事だったものの、帰って鏡を見てみるとなんとなく剃りが甘い気がした。

 

シャンプーも彼女が担当。「椅子倒しますねー。」と背もたれを倒しすぎ、逆に座席の位置が高すぎた。

洗髪台に対し、さながらシャチホコのような角度で頭が入った。

それを見た彼女に、「体勢辛くないですか?」と聞かれたときはさすがに笑った。

洗髪台に結構頭突っ込んでたからね。「ちょっと高いかな。」とだけ伝えました。

体勢がキツイというか、こらえるのがキビシイっす。ハヤエル、あうとー。

 

以上、『【大天使ハヤエルの天界から来ました。】笑ってはいけない美容院【vol.3】』でした。