随筆

人生ってのは必ずしも自分の物じゃない。

遅く起きるのが嫌いだ。
長く眠るのは好きだし、元来熟眠感を感じたことのない僕は長く眠れたか否かを睡眠の質のバロメータとしている。
早く眠るのは良しとしても遅く起きるのが嫌いだ。

より長く眠りたいなら早く就寝すればいい。
21時でも20時でも、仕事を終えて帰宅してからは自由だ。無理に起きている必要はない。
趣味があっても後回しにすればいいし、朝にやってもいい。
頭ではわかっていてもそうもいかないのが現実だ。

嫌なことからなるべく距離は取るようになったが、まだまだ嫌なことを続けている。
頭では理解していても距離が取れないものもある。やめられないものもある。
頭の中で相反する自分がいる。どうすればいいか、もっと幸福になるかを理解していてもそれを選択できない自分がいる。
もう何年も討議して、僕が楽しいとか僕の人生が充実するとかそういう面を諦めるという結論に至っている。
幸福を諦めたが故に、僕は今幸せだ。
嫌なことばかりで辛いことばかりで苦しい毎日を過ごしているが、これが僕の人生で到達できる最大の幸せだ。今以上を求めるのが野暮ってものだ。
そうは理解していても、何かどうにかして苦しみから抜ける方法はないかと考え、抗おうとしている。そしていつも同じ門にぶつかる。

どうにか通してほしくてシュークリームを門番に差し出した。
退屈そうにしている彼が窓を開けて言う。
「何回も言うけど、この許可証に署名するだけで通れるけど?」
僕は少し考えて、いやいいですと引き返す。
「次来るときは和菓子がいいな。もうクリームは飽きたから。」
彼はそう言って「またな」と窓を閉めた。
「どうせ覚えてねえか」と呟いたのが聞こえた気がした。